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解説「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」(3)

「百万人署名運動全国通信」63号(2003年2月)
 前田 朗

殺人国家

 アメリカの戦争政策を批判するにしても「殺人国家」などと表現するのは行き過ぎと思われるかもしれないが、これは私の言葉ではない。アメリカにおける死刑制度と死刑執行の実態を批判したオースティン・サラの言葉である。

 元アメリカ法社会学会会長でアムハースト大学教授のオースティン・サラは、『国家が殺す時――死刑とアメリカの状況』(プリンストン大学出版、2001年)において「殺人国家の復讐政策」を徹底的に分析している。それに先立って『殺人国家――法、政治、文化にみる死刑』(オクスフォード大学出版、1999年)を編集して、これまでに7000人以上を処刑し、いまも3000人以上の死刑囚を獄中に抱えるアメリカの現実を問い返す試みをしている。

 欧州諸国がすべて死刑を廃止し、国連が死刑廃止条約を採択し、国連人権委員会が死刑廃止決議を繰り返している現在、サウジアラビア、中国と並ぶ最大の死刑国家アメリカの国家と社会そのものが問われている。

 ブッシュがイラクへの攻撃を遮二無二推し進めようとしている現在、イリノイ州のライアン知事(共和党)が、死刑制度の不備や誤審の恐れを理由に、イリノイ州内の全死刑囚167人を一括して終身刑などに減刑したことは、<戦争と死刑>という殺人国家の2大特質が孕む問題を急浮上させた(「朝日新聞」2003年1月13日付)。

 ライアン知事は、州内の死刑囚に対する杜撰な捜査に基づく不当判決の多さに衝撃を受けて、3年前に死刑執行を全面停止して全死刑囚の判決の見直しを進めてきた。1977年には州下院議員として死刑復活に賛成投票をし、知事に就任した1999年には1人の死刑執行に署名したというから、明白な死刑肯定論者であった。ところが、ノースウェスタン大学学生らが、ある死刑囚の裁判記録を調べて、無実の証拠を見つけ出したという。そこで死刑判決の調査を行ったところ、不当判決が続々と見つかった。「死刑制度は不道徳だ」との結論に達した知事は、任期終了直前に167人の「一括減刑」という空前かつ大胆な英断を下した。

 「死刑制度は悪魔的な誤りを犯すリスクに取りつかれている。この州のだれにでも同じように起きる可能性がある。」
 さらに、ライアン知事は、アメリカにおける死刑が人種差別や貧富の問題に密接に結びついていることも指摘している。周知のように、白人が被害者、黒人が加害者の場合に圧倒的に多く死刑が言い渡されている。黒人が被害者の場合には死刑になる率はぐっと下がる。

 「一括減刑」に対して検察官や被害者遺族らから猛烈な反発が起こっている。
 死刑存廃論議に大きな一石を投じたライアン知事だが、この問題は<国家ム戦争ム死刑>の問題としても論じておく必要がある。

 第2次大戦における東京大空襲・ヒロシマ・ナガサキ、朝鮮戦争における空爆・化学兵器・民間人虐殺、ベトナム戦争における空爆・枯葉剤、湾岸戦争における劣化ウラン弾、ユーゴスラヴィアに対するNATO空爆、アフガニスタン空爆と、アメリカは半世紀以上の歳月、地球上の至るところで(しかも、主にアジア各地で)空から海から地上から殺戮と破壊を繰り返してきた。文字どおりの殺人国家である。

 国外では、圧倒的な軍事力を用いて無差別爆撃を敢行し夥しい死者を出しながら「世界の憲兵」を誇る傲慢と倒錯。国内では、拷問と人種差別と死刑の恐怖政治を推進しながら「デモクラシー」「自由な社会」と唱える無知と頽廃ムム殺人国家アメリカが世界の平和を危機に瀕している。このことの自覚がない限り、アメリカはこれからもアジア各地で虐殺の雨を降らせるだろう。

1月1日にアフガン国境を越えて

 イスラマバードのアフガン領事館でのビザ申請が予想よりも早く済んで、思いがけず1月1日にトルカムの国境を越えて、その日のうちにカブールに入ることができた。イスラム社会だから1月1日は特別の日ではないが、欧米の影響もあって、この日は休む例も出ているようだ。

 第4次アフガニスタン戦争被害調査団の目標は、第1に戦争被害者からの直接の聞き取り、第2にカブールで活動するNGO「グローバル・エクスチェンジ」への協力要請、第3にクエッタの難民キャンプでの調査であったが、最後の点は早めにカブールに入れたので省略することにした。

 カブールでは3人の戦争被害者に取材することができた。

 カブール北部にあるカリカナは、タジク人の集住地区で「マスードの町」ともいわれる。カリカナの新住宅地在住のグル・マカイさん(40歳)は、アメリカの空爆開始直後に自宅に爆撃を受けた。朝の7時頃で朝食を摂っていた。一度に2つの爆弾が落ちたという。壁と屋根が崩落し、長男(20歳)が死亡した。夫、2人の娘、小さな息子と暮らしているが、貧しい上、長男を亡くしたショックで精神的なトラブルを抱えている。

 ハニファさん(28歳)も、母親が死亡し、本人は左目に傷を負った。夫はタリバンに殺されていた。ハニファさんの子ども1人、母親の子ども6人と、グル・マカイさんと同じ敷地の小さな部屋で暮らしている。眼科病院に行ったが、薬代も払えない。この地域にはタリバンの「315基地」があったが、それは500メートルほど離れた場所である。

 アブロム・フサインさん(70歳)は、カブール東北部にあるカブール空港の近くのワジル・アバド町に暮らすハザラ人である。10年ほど前から耳が遠くなったが、アメリカの空爆後はまったく聞こえなくなった。息子の妻であるロー・アフザさんが代りに話してくれた。アメリカの空爆で家に直撃を受けた。隣の2軒とともに被害を受け、フサインさんの家も壁が崩壊し、妻のグル・チェチュラさんが亡くなった。隣の2軒は物損のみで負傷者はいない。この地域にはタリバンの基地と倉庫があるが、それは200メートルは離れている。近隣の家屋の多くが被害を受けたが、今でもここに残っているのはフサインさんの家族だけだという。帰りに基地と倉庫を確認したが、その手前の路上は徹底的な爆撃の跡であった。

 調査団は、アメリカのNGO「グローバル・エクスチェンジ」を訪問して今後の協力について協議した。また、「革命的アフガニスタン女性協議会RAWA」も訪問して協力要請を行った。

 私たちは12日の帰国を予定していたが、米軍のオペレーションのために予定を大幅に変更せざるをえなくなった。12日は米軍がイスラマバード空港を全面使用するという通知があり、パキスタン政府が全面受入れを決めたため、この日のフライトはすべてキャンセルになってしまった。大慌てで他のフライトを確保して帰国することになった。

 アメリカはイラク攻撃のために海兵隊の派遣などを進めていたが、中央アジアだけではなく、アフガニスタンやパキスタンでも着々と準備をしていた。カラチのホテルもほとんど米軍が押さえたという噂だった。
 一時は協力を渋っていたサウジアラビアも協力に転じ、タリバンを支えた弱味につけ込まれたパキスタンも戦争協力に踏み切ってしまった。

 アメリカの横暴を抑えるためには、アジアにおける反戦平和運動こそ重要なのに、いまや我先にアメリカに忠誠を誓う始末である。「ブッシュのペット」は小泉の専売特許ではなくなってきた。

ブッシュの戦争犯罪を裁くために

 2002年12月15日、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷(ICTA)第1回公聴会を東京・新宿で開催した。

 ICTAは、ブッシュの戦争犯罪を裁くための2003年12月の法廷開催に向けて1年間の法廷運動としてスタートした。公聴会は法廷のための証拠収集の場であり、ほぼ毎月のように国内各地で開催し、国外での開催も追求している。

 第1回公聴会は「軍事のグローバリゼーション」に対して「平和の文化」を掲げる開会宣言で幕を開けた。特別顧問のラムゼー・クラークさん(弁護士、国際行動センターIAC)のビデオ・メッセージは、イラクに対する攻撃が迫りつつある現在におけるICTAの意義を浮き彫りにした。

 IAC代表のゲーリー・ウィルソンさんは、アメリカにおける反戦平和運動の10年を総括する力のこもった連帯挨拶をした。「湾岸戦争」と呼ばれたイラク戦争において、アメリカ軍がいかに残虐非道な戦争犯罪を犯したか。その事実を隠蔽しようとするアメリカ政府とメディアに対して、IACが事実を暴露したことが、アメリカ、ひいては世界の平和運動にどのような影響を与えたか。父親ジョージ・ブッシュの戦争犯罪を徹底解剖したクラーク法廷の「判決は、正義を求める運動にとって終わりではなく、始まりだったのだ」。

 それから10年。茶番としての歴史が繰り返す。息子ジョージ・ブッシュが闇雲にイラク攻撃を叫んでいる。

 これに対して、アメリカの反戦平和運動は、開戦前から大規模な反戦の闘いを繰り広げている。10月26日や1月18日の全米一斉行動は、アメリカのマスメディアさえも無視できなくなっている。日本と同様に、欧州やアジア各地で反戦平和運動が高まっている。

 ウィルソンさんは、米軍はアフガニスタンにおいてクラスター爆弾、デイジー・カッター、バンカーバスターなどの非人道的な大量破壊兵器を使用した。そして、600トンもの劣化ウラン弾を使用したという。IACは、1月18日の全米一斉行動に際して、各地の反戦平和運動の市民がアメリカの大量破壊兵器に対する民衆の「査察」の権利を行使するよう呼びかけている。核施設に対する査察を全面拒否している世界で唯一の政府は、アメリカである。

 日本では査察というと、ひたすら「イラクだ、北朝鮮だ」と騒ぐが、これは「戦争遂行のためのデマ」といっていい。イラクも朝鮮も査察を受け容れてきたのに、国際法の枠組みを越えた身勝手な「スパイ活動」を行ってきたのはアメリカである。そのアメリカだけは査察に応じていない。

 公聴会で、伊藤成彦さん(中央大学名誉教授)は「9.11以後をどう見るか」と題して現代世界認識を語った。「9.11」を出発点として位置づけるのではなく、グローバリゼーションと呼ばれる90年代以後のアメリカの資本と軍事の世界戦略の流れの中で「9.11」が起きたことを強調した。世界大で人民を抑圧し収奪するシステム全体に立ち向かう必要がある。ブッシュがいう「テロとの闘い」は、問題の真の所在を見えなくするための戦争宣伝にすぎない。

 アフガニスタン取材から帰国したばかりの広河隆一さん(フォトジャーナリスト)は、マーク・ヘロルド教授が公表したアフガニスタンにおける民間人被害者に関する報告書を手にして、その現場を回って裏づけ取材をしたという。その証拠写真を持ちかえった貴重な報告をしてくれた。

 カブール陥落時に現場に行っていた綿井健陽さん(アジアプレス)は、当時の取材ビデオを上映して、現場で見た戦争の実相を報告してくれた。空爆する側とされる側の双方の視点を対照しながら、空爆の映像の彼方で地上の人々に何が起きていたのかを明らかにしてくれた。

 フィリピンから参加したポール・ガランさん(平和団体AKCDF理事)は、政府軍が人民軍との対話を投げ捨てて弾圧政策を展開する中で、特に女性と子どもに対する誘拐や拷問や虐殺が発生している事実を報告した。

 『国際刑事裁判所の理念』(成文堂、2002年)の著者である安藤泰子さん(茨城大学講師)は、「平和に対する罪」から「侵略の罪」へと展開してきた、現代国際法における概念形成と解釈をめぐる対抗を、国際刑事裁判所規程起草過程の分析を通じて解明したうえで、アフガニスタン攻撃は国際法違反であり侵略の罪にあたることを示した。

 こうしてスタートしたICTA運動は、現代国際法の水準でブッシュの戦争犯罪を裁くために、「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷ICTA規程」と「ブッシュに対する起訴状・草案」を和文・英文で準備し、内外に協力を呼びかけている。2002年3月から4次にわたる現地調査を行って、民間人殺害や難民化の状況を調査してきた。NGOやジャーナリストの協力を得て、さらにいっそう証拠収集を進めていく。

 アフガニスタン空爆に日本軍(自衛隊)が後方支援を行うのを、私たちは阻止できなかった。かつて「湾岸戦争」では、戦費120億ドルを提供して、私たちの税金でイラクの人民を殺戮した。その被害はいまなお劣化ウラン弾の恐怖として続いている。同様に、私たちの税金でアフガニスタンの人民も殺されていった。小泉は、次のイラク戦争にも協力する政策を取りつづけている。

 アメリカの戦争に反対すること、日本の戦争協力に反対すること、有事法制に反対すること--それらはすべて同じ問題である。日本の平和運動が、アジアや世界の人民に顔向けできるよう、自らの責任を果たさなくてはならない。
 殺すな。殺させるな。殺人国家にNO!をつき付けよう!

アフガニスタン戦犯法廷準備会編『ブッシュの戦争犯罪を裁く』(現代人文社、2002年)
アフガニスタン戦犯法廷準備会編『ブッシュの戦争犯罪を裁くPart.2』(現代人文社、2003年)

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「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」実行委員会 The International Criminal Tribunal for Afghanistan